ベネディクト・ブルーから考える、ヒール男子は何故尊いのか

映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』を見た。

前半だけでも3回くらい泣いたし後半でも4回くらい泣いた気がする。もうだめだ。

自分はテレビ版の方でもヴァイオレットの仕事の回が好きだったので大変楽しめた。

少佐の話は今回出てこない。新規にも優しいし自分は個人的にそこがどうでもいいので良かった。

 

ヴァイオレット・エヴァーガーデンの世界の好きなところとして、安易に悲劇を使わないところがある。

戦争が起きて人が死んだり、病気で人が死んだり、愛する家族と離れ離れになることもあるけど、一方で戦争から無事帰ってこられた人も居るし、政略結婚だけど愛し合って幸せになることもあるし、世の中は復興していく。

 

今回の映画なら縦ロールのお嬢様を嫌な人にしたり、妹を世話すると言っておきながらちゃんとやらないクソ親父にすることは簡単だったと思う。そうすれば簡単にイザベラの境遇を悲劇的にできる。

しかしそうはしない。

 

イザベラの環境は、客観的に言ってしまえば別にそこまで悪くはないと思う。

 貧乏暮らしを抜け出して良い学校に通い、妹は約束通りちゃんと世話されている。なんだ、良かったじゃん、と言えてしまう。

しかしイザベラとしては「自分ではテイラーを救えなかった」みたいなところが引っかかっているんだろうし、そういう複雑なところを掬い取って、それで心を動かせるんだから話を作るのが上手い。

テイラーの方も、姉のことは実際ほとんど覚えていなくて、別れた姉に会いたくて毎日寂しいみたいなわけでもないバランス感である。上手い。

 

まあ話の内容については多分あちこちで頭のいい感想があると思うのでそこは頭いい人に任せようと思っている。

じゃあなんの話をするかってベネディクト・ブルーが最高だったという話だ。

 

 

このヒールである。

 

 

別にテレビ版の時からベネディクトはヒールブーツだったのだが、映画ではアングルとかカット割からヒールブーツ推しをめちゃくちゃ感じられる。

まあそもそもアニメ版だとベネディクトメイン回が無かったので、今回初めてベネディクトが沢山映ったせいもあるのだろうが……それにしてもフェチがビシバシ伝わってくる。

 

ところで引用したツイートにもある通りベネディクト・ブルーはC.H郵便社の配達人である。

つまり沢山動く仕事の人である。

当然華美な服装は向かないだろうしハイヒールなんて尚更である。にも拘らずまあまあ高いヒールと背中開きのシャツである。

 

アニメ版の時からこいつすごい格好だな……とは思っていたが映画で舐め回すように描かれると改めてすごい。

この靴で実際に配達しているシーンが描かれたのは初めてじゃないだろうか?(もしかしたら忘れてるだけかもしれないが)

ちゃんと手紙や荷物を届けていたしチャリも操っていた。あの靴で。

 

と、ベネディクトの一挙手一投足にうわぁ……と良い意味で唸っていたのだが、ふとここで、もしこのポジションが女性キャラだったらここまでヒールブーツにいちいち感心しないだろうなと思った。

これは性癖の話ではなく……いや性癖的にもベネディクトのヒールブーツは大変良いが……女性キャラが仕事に不適であろう華美な服装やハイヒールにデザインされるのはよくあるからだ。

 

二次元の女性はハイヒールで走れるし戦える。だって二次元だから。

それは全然良い。実際ハイヒールはカッコよくて見た目が良いから、ハイヒールで動き回るキャラは見て癒される。

しかし自分は残念ながら現代日本を生きる女であるので、現実に「女はヒールを履け」という圧を受けることがちょっとある。就活とか。

自分はそういうやつが嫌いなので、二次元の女キャラが仕事に不適なヒールを履いていると、現実のハイヒールが纏う嫌な文脈を思い出して少しだけウゥーンとなる時がたまにある。たまに。

勿論二次元は二次元であって人間ではないので、彼女らは多分足が痛くなったりしないし靴擦れもしないんだろうけど。でもそういう機能性に反する装飾性を「女性キャラだけが」背負わされる時、ちょっとウェーとなる。多分自分以外にもそういう人いるんじゃないかな。

 

そこで、スーッと沁みて効く、ヒール男子である。

そう、実用性度外視の装飾性、別に男性キャラにも背負わせていけばよいのだ。

 

……などと言うと、なんかやられた嫌なことをやり返しているみたいな、ヒールの嫌な文脈を男性にも押し付け返すみたいに聞こえてしまう。

実際自分も、ヒール男子を好きなのはそういう復讐みたいなところがあるんじゃないかと前は思っていた。

でもそれも少し違う気がしてきた。

普通に、素直に、ハイヒールはカッコいいのだ。

 

ヒール男子が良いのは、女性的な要素を男性が纏っている意外性によるものだと最初は認識していた。

それも正直あると思うけど、でも別にそういうのを抜きにしても、そもそも女性が履いても男性が履いてもハイヒールがカッコいいから良いんじゃないだろうか?

ハイヒール、男もどんどん履いたらいいんじゃない???

 

ハイヒールはカッコいい。そして二次元は絵なので、どれだけカッコよくしても不便を被る人はいないのだ。

つまり二次元のハイヒールはノーコストでカッコいい。最高だ。

それを女性キャラしかやらないとか勿体ないではないか。

 

男性キャラが装飾性を纏うことはそれ自体も嬉しいし、それによって女性キャラの装飾性もフラットな気持ちで楽しめるようになる。少なくとも自分にとってはそうである。

 

ついでに言えばベネディクト・ブルーの良さの一つとして、その服装が作中で特異なものとしては扱われないところがある。

彼の服装は視聴者から見ればそれなりのインパクトだし、公式に「服装にこだわりがあるキャラ」という記述はあるが、作中でそれについて驚いたり、突っ込んだり、茶化したりする人は居ない。

一度ベネディクトが転んで怪我する回があって、そこで「そんな靴履いてるから……」みたいな事は言われていた気がするけど、全体見てもそこしかないくらいだ。

それも「ヒールは転びやすい」という意味で言われるだけで、「女みたいなの履いてる」的な方向では取り上げられない。

ベネディクトも所謂オネェ的なキャラ付けをされているわけではないし、ヒールブーツ以外の部分は特に女性的な服装なわけでもない。

多分あの世界においてヒールブーツは別に女性のものとされるファッションではないのかもしれない。

あの服装がナチュラルに受け入れられているところは、ヴァイオレット・エヴァーガーデンの世界観の優しさの一つだと思う。好きだ。

 

というわけで二次元の男性キャラ、女性キャラが既にそうしているように、存分に機能性を度外視して着飾ってヒールを履いてほしい。

何せ二次元なのだから。

オシャレは開かれている。