重い物を他人に持たせる女を個人的に憎んでいる

職場でプリンターの紙が切れた時、交換紙の入った段ボールを運ぼうとしたら先輩女性達に止められた。重いよ、腰痛めるよ、などと言って、少ない男性をわざわざ呼びつけて運ばせようとするのだ。

私はそういうのがなんか嫌だ。心にガキが住んでいるから、重いよ!と言われるとへっへどのくらいだよ!持ち上げてやるわ!とワクワクしてしまう。まだ挑戦もしていないのに即座に男を呼ばれるのはなんか癪だった。

そう言われると持ってみたくなるんです!などといい歳して子供みたいなことを口に出して、結局普通に持って運んだ。大して重くなくて拍子抜けした。雑魚が。

こんなののためにわざわざ人呼ぶなよ、と思った。あと職場にはカートがあるので、それを使えばわざわざ作業を中断させて男を呼ぶ必要は無い。

 

私は「女の荷物を持ってくれる男」という概念にときめくことができない。重い物を他人に持たせる女が嫌いだからだ。

こう言うと語弊がある。別に重くても自分で持て!と言いたいわけではない。いや、本当は、感情としてはそう思っている部分もちょっとあるが、主張としてそれを言うことはしない。

ただ、性別を理由にすることに合理性を感じないから、「女の」荷物を持ってやる「男」という概念は自分に響かない。

 

主張とは別に、自分の中に重い物を他人に持たせる女に対する憎しみが存在するのは、昔そういう人間にムカつく出来事があったからだ。職場の件でそれを思い出していた。

私は男ではないし、そいつも多分女を理由にそういう行動に出たわけでは無いだろうから、綺麗に重なるような話ではないのだが、そいつが女だったせいで「重い物を持たない女」の話になるとあいつを思い出してイライラするのだ。

これはフェミニズムとかポリコレの話をしたくて書いている記事ではなく、思い出してムカついたから書いている愚痴だ。オチは無い。

 

 

義務教育時代、給食当番制度がある環境に身を置いていた時の話だ。小学校だったか中学校だったかは忘れてしまった。

金が無いのかなんなのか、荷物用エレベータが無く、一階の隅にある給食室までわざわざ物を取りに行かねばならないローテク学校だった。

その事件が起きた時は教室が4階にあったから、まあまあ面倒臭い運搬だったのだ。

 

給食の荷物といえば、最も重いのがおかず用食器類のカゴ、次いで白飯、汁物、主菜・副菜・ごはん茶碗、その他デザート類等は雑魚といった感じだろうか。白飯でなくパンの場合はわりと軽い。

 

運搬について、「各自の判断で持ってきましょう」などとする場合もあるが、あれは実際いろいろな問題が起こる。

まず取りに行かない奴が出る。それでいつまで経っても教室に物が揃わなかったり、行ってないの誰だよと揉めたりする。

揉めなくても、積極的に仕事をこなすタイプが二つも三つも持ってくることになったりする。積極的な人はすごいし、たくさん運んでくれることはぶっちゃけ有難いが、結局サボりが一番楽をするのはムカつく。

また、誰が何を持ってくるかを決めないことで、「一つは持って来ればよいだろう」という普通程度の規範意識と、「でも重いのは嫌だ」という普通程度の怠惰さが合わさり、軽いものの奪い合いになる。それで着替えが速くなるなどの効果もあるが、軽いものが無くなったからと重い物をスルーして手ぶらで戻る奴が出たり、結果重いものが取り残されたり、重い物しか残っていないのに他の奴がもう居ないせいで一人きりでクソ重い物を運ぶ羽目になったりするのだ。

 

そういうことを考えてかは知らないが、その時は誰が何を持つか決めてあるクラスだった。

決める方式だとそれはそれで、担当するものが重いか軽いか、配膳が楽か大変かなどの差もあるのだが、とりあえず結果的に上手く行きやすいのは担当を決める方式ではないかと自分は思う。

 

ある時自分は主菜のボウル担当で、その通りに持って来ようとしたのだが、何故か給食室に行った時には既に主菜ボウルが無かった。

副菜担当が間違えたのか?などと思いとりあえず副菜のボウルを運ぶ自分。

教室に戻れば主菜のボウルは誰かが持ってきていたらしい。じゃあいいや。とりあえず一個は運んだし。

盛るぞーというところで、何やら不穏な空気に気付く。

汁物の食缶が来ていない。

誰?誰?と言いながら担当が書いてある掲示物を確認する当番達の中で、1人の女――まあイニシャルからHとしよう、Hがこちらに向かって言うのだ。「さらださんじゃん」

いや私ではない。私は主菜担当なので。

自分ではないのだが、実際汁物が来ていないので、当番たちは困る。そしてなんとなく自分が持ってくるべきっぽい空気になっていく。

ふざけるな。自分ではない。担当をちゃんと確認していたため自分が汁物担当ではないことに絶対の自信があった。

当番表を確認する。Hが何を見て自分に冤罪をふっかけてきているのかは察しがついていた。

 

そのクラスは班の数が奇数で、給食当番は2つの班で担当するから、当番回が2パターンあるのだ。例えば3班なら、2班と組むパターンと4班と組むパターンがあるわけだ。

自分は確かに汁物担当の時がある。だがそれは、その週とは違うパターンの時なのだ。だから今日は違う。無罪を証明すべく自分は当番表とHに詰め寄る。今回のパターンの汁物担当はどいつだ。

 

Hじゃねえかよ!!!

お前マジで言ってんのか?お前分かってて押し付けようとしてたのか?ふざけんじゃねえぞ。

ほらHさんじゃん!と言い返す。自分が悪い感じの空気に苛立って若干ムキになっていた。

するとH、言うのである。

「だって重くて持てないんだもん」

ハァ〜〜〜〜????????

何それ。それが何故他人に冤罪ふっかけて持って来させようとする理由か?ハァ?死ぬか?

 (説明すると、おかず食器とご飯・パンの四角いアレは2人担当制なので、ソロで一番重いのは汁物食缶なのだ。)

 

結局重い汁物は、当番内の積極的な誰かにより運搬され、配膳は開始された。

誰だったのか結局分からなかったが気の毒に思う。悪いことをしたような気分にもなるがでも自分は悪くない。

 

Hの何がムカつくって、Hがいけしゃあしゃあと持てないんだもん、などと言って他人に押し付けようとした汁物食缶を、私はもう片方のパターンの時はちゃんと運んでいるのだ。1人で。クソ重いけど。4階まで。

実際重いし、毎回教室まで戻るだけで汗だくだった。汗かきだから。でも担当だから……というのが半分と、あと自分には一緒に持ってくれるような友人が当番内に居なかったから、まあ1人で運ぶしかなかった。

液体ならまだしも、焼きそばとか固体系の日だと特にやばい。おいしいけどね。

重くて、階段でちょっと床に置いて一休みしてしまうこともあって、そこは衛生的に問題だった思う。でも重いんだよ。

でも自分は当番のうち半分はちゃんとそれを運んでいたのだ。階段で床に置いたのはすまんかったけど。

それを持てないんだもん、とかナメくさった物言いでしれっと私のせいにしようとしてきたからHに憎悪を抱いたのだ。それ以来あいつが嫌いだ。

私は過去の人間関係をすぐ忘れるので、もう会わなくなった学生時代のクラスメイトなんて仲が良かった一部を除いてほとんど顔も思い出せないが、奴のことは今でも憎しみと共に覚えている。

 

実際Hが押し付けようとしていたのか素で間違えていたのかは知らんが……いやでも正直私が喪だからナメられたのではないかと思う。まあ毎回そういう騒ぎが起きていないあたり普段は持ってきていたのかも、と、好意的に取ればそう思うが、実は毎回誰かに尻拭いをさせていて珍しくキレ返したのが私だっただけかもしれない。

まあそこは今はいい。とにかくこの件で重い物を簡単に持てなーいとか言う女に強烈な憎悪を抱いてしまったのだ。

別にこれが男だったとしても憎んだが、たまたまHが女だったのと、世の中から未だ根絶されない「女の荷物を持ってやる男はカッコいい」的なクソ化石ジェンダーのマリアージュが絶妙に憎悪を増幅させるわけだ。

 

自分は別に力が強いわけでも体力があるわけでもなかった。今もそうだ。

腕力があるかは知らないが少なくとも体力はない。CoC的に表せばSTRは中の下だがCONは雑魚な感じだ。

しかしだからと言って、私が持てるものは誰でも持てるだろ!甘えるな!とかは思わない。ただHの態度が気に入らねえ。

 

理性で考えれば、重くてキツいなァ、という時は別に他人に助けを求めていいし、そこに性別は関係ないというだけの話なのだ。

奴の態度はクソだし冤罪は許さないが、私も1人で運ぶことを諦めて、誰かに手伝ってくれと頼んでみてもよかったのだ。

まあ汁物を1人で運ぶ当番設定自体無茶では?という交渉の方が根本的だったかもしれないが……そこは人数の都合上無理とかだったかもしれない。細かく覚えていない。

とにかく、自分は担当だからといって毎回つらいのに1人であれを運ぶ状況に対してなんらかの対応ができたのかもしれない、ということだ。

人望がないので助けを求めても断られるかもしれないがそれはまた別の話だ。

 

以前知人にこの愚痴を喋った時、「女子が1人で重いの持つ割振りにするなよ……」というコメントをされた。でもそれはなんか違う気がした。

確かに自分にとってあれは重くてつらかったけど、別に男でもあれを1人で持つのはちょっとキツいという人もいると思う。だから男なら一人で重いものを持つ割振りでも仕方ないみたいな言い方はなんかこう、違うのだ。そこじゃない。

そこではないのだ。性別は関係なく、自分という個人にとってあれは重かったのだ。

 

だってムキムキマッチョの女と骨と皮みたいな男のどっちに荷物を持ってもらいたいかって考えたら私は前者だ。これは極端だけど、元気な女とすごく疲れている男なら元気な女の方がパワーがありそうだと思う。そういうことが言いたいのだ。

ただ持てる人が持てるものを持てば丸く収まるのであって、性別を持ち込むのは余計な混乱を招くからやめろと思う。

 

持てる人が持てばいい、と言うと、積極的な人の善意に頼りまくりな感じが出てしまうが、でも私はお世辞にも積極的なタイプではないけど、他人の荷物を持つことにはあまり抵抗はない。すごく忙しいとかすごく疲れているわけでなければ基本的に手伝ってもいい。

私は別に非力な人間が嫌いなわけではないのだ。人間1人で持てないものはある。ただクソみたいな態度で他人に仕事を押し付ける奴が嫌なだけだ。

だからこれは手伝え!助けろ!という立場で言っているわけではないのだ。ただ性別を理由に助ける気分になったりならなかったりする感覚が共感できないだけだ。

めちゃくちゃつらそうな男から助けを求められたら普通に持ってあげたいよ。

 

なんでそうならないんだ。力の強い男がカッコいい!女はか弱いのが可愛い!みたいな価値観は未だに根強いんだろうか。

それとも、そんなに積極的に持ってほしいわけではないけれども、気遣われている感じがするから持ってくれたら嬉しいっていう女が結構居るんだろうか。持ってあげる自分がかっこいい感じがするから好き、みたいな男が意外といるんだろうか。えー。うそーん。やだー。